発達障害とは
発達障害は、生まれつき見られる脳機能の発達のかたよりによるものです。病気というよりも、その人が持つ「特性」と理解するのが適切です。発達障害があるからといって、能力が全体的に低いわけではなく、ある分野では優れた能力を発揮する一方で、特定の分野が極端に苦手といった、能力の凸凹(でこぼこ)が見られるのが特徴です。
子どもの頃には「個性」として見過ごされていても、就職や結婚など、環境が変化して高い適応能力が求められるようになると、特性が原因で困難に直面し、初めて気づかれることも少なくありません。
自閉スペクトラム症 (ASD)
ASDの主な特性は、「対人関係や社会的なコミュニケーションの困難さ」と、「特定の物事への強いこだわりや反復的な行動」です。スペクトラムという名前の通り、特性の現れ方には大きな個人差があります。
主な特性の例
- 相手の表情や声のトーンから気持ちを察するのが苦手(場の空気が読めないと言われる)
- 曖昧な表現や冗談、皮肉が理解できず、言葉通りに受け取ってしまう
- 一方的に自分の興味のあることばかり話してしまう
- 決まった手順やルールに強くこだわり、急な変更に対応するのが難しい
- 特定の物事(例:電車、歴史など)に対して、非常に深い知識を持っている
- 光、音、匂い、肌触りなどの感覚が非常に敏感(または鈍感)
注意欠如・多動症 (ADHD)
ADHDの主な特性は、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つです。これらの特性が、生活や仕事の様々な場面で困難さを引き起こします。
主な特性の例
- 不注意:ケアレスミスが多い、集中力が続かない、忘れ物や失くし物が多い、約束や締め切りを忘れてしまう、整理整頓が苦手。
- 多動性:会議中などにじっと座っていられず、そわそわしてしまう、貧乏ゆすりなど目的のない動きが多い(大人では内的な落ち着きのなさとして感じられることも)。
- 衝動性:考えずに行動してしまう、相手の話を最後まで聞かずに話し始める、順番を待つのが苦手、衝動買いをしてしまう。
ASDとADHDの両方の特性を併せ持つ方もいらっしゃいます。
二次障害について
発達障害の特性そのものは、直接的な治療対象ではありません。しかし、その特性ゆえに周囲の環境とうまくかみ合わず、叱責されたり、失敗体験を重ねたりすることで、自信を失い、うつ病、不安障害、睡眠障害、依存症などの精神的な不調(二次障害)を引き起こしてしまうことがあります。心療内科では、この二次障害の治療と予防が非常に重要な目標となります。
診断とサポート
発達障害の治療のゴールは、特性を「治す」ことではなく、ご自身の特性を正しく理解し、生活や仕事で困っていることに対して、具体的な対策や工夫(環境調整)を見つけていくことです。
1. 正確な診断
まずは専門医による問診や心理検査を通じて、ご自身の特性を客観的に評価することが第一歩です。診断がつくことで、長年の悩みの原因が分かり、安心したり、自分を責めなくなったりする方も多くいらっしゃいます。
2. 心理社会的アプローチ
カウンセリングを通して、自分の「得意」と「苦手」を整理し、苦手なことへの対処法を学びます。また、対人関係のスキルを学ぶソーシャル・スキル・トレーニング(SST)なども有効です。
3. 薬物療法
ADHDの不注意や衝動性に対しては、その症状を緩和するための治療薬があります。薬を使うことで集中しやすい状態を作り、仕事や生活の困難さを軽減させることができます。ASDの特性自体を改善する薬はありませんが、合併している不安や抑うつに対して薬物療法を行うことがあります。