どんな病気か
不安障害(不安症)とは、特別な理由がないのに、あるいは特定の状況や対象に対して、過剰な不安や恐怖を感じてしまい、それによって動悸、息苦しさ、めまい、震えといった身体的な症状や、落ち着きのなさ、集中困難などの精神的な症状が現れ、日常生活や社会生活に支障をきたしてしまう状態の総称です。単なる心配性とは異なり、不安や恐怖の程度が非常に強く、自分でコントロールすることが困難になります。不安障害にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴的な症状があります。
症状(主な種類)
不安障害には様々なタイプがありますが、代表的なものとして以下のような疾患が含まれます。
パニック症(パニック障害)
突然、理由もなく激しい恐怖感や不安感に襲われ、動悸、息苦しさ、めまい、吐き気、発汗、死ぬのではないかという恐怖などの「パニック発作」を繰り返します。そして、「また発作が起きたらどうしよう」という強い不安(予期不安)を感じるようになり、発作が起きた場所や、逃げられない・助けを求められないような場所(電車、人混み、閉所など)を避けるようになることもあります(広場恐怖症を伴う場合)。
社交不安症(社交不安障害、SAD)
人前で話す、注目を浴びる、人と交流するなど、他者から評価される可能性のある社交場面に対して、著しい恐怖や不安を感じる状態です。「恥ずかしい思いをするのではないか」「失敗して笑われるのではないか」といった考えにとらわれ、動悸、赤面、発汗、震えなどの身体症状が現れることもあります。その結果、そのような社交場面を避けたり、強い苦痛を感じながら耐えたりするようになります。
全般不安症(全般性不安障害、GAD)
特定の対象や状況ではなく、仕事、学業、経済状況、家族、健康など、日常生活における様々な出来事や活動について、過剰でコントロールすることが難しい心配が長期間(少なくとも6ヶ月以上)続く状態です。常に緊張していてリラックスできず、落ち着きのなさ、疲れやすさ、集中困難、筋肉の緊張、睡眠障害などを伴うことが多くあります。
その他の不安障害
上記以外にも、特定の対象(動物、高所、閉所など)に対する強い恐怖を感じる「限局性恐怖症」、大切な人や場所から離れることに強い不安を感じる「分離不安症」、特定の場面で話せなくなる「選択性緘黙」なども不安障害に含まれます。
これらの不安障害は、互いに併存したり、うつ病などの他の精神疾患を合併したりすることも少なくありません。
原因
不安障害の原因は一つではなく、様々な要因が複合的に関与していると考えられています。
- 生物学的要因:脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、GABAなど)のバランスの乱れや、脳の特定部位(扁桃体など)の機能異常、遺伝的な要因などが指摘されています。
- 心理的要因:元々の性格傾向(心配性、完璧主義、神経質など)、過去のトラウマ体験、大きなストレスとなる出来事、物事の捉え方(認知の歪み)などが影響することがあります。
- 環境要因:育った環境、現在の生活環境、社会的なストレスなども発症に関わることがあります。
治療法(当院でできること)
不安障害の治療は、疾患の種類や症状の程度、患者さまの状態に合わせて行います。当院では、主に精神療法(心理療法)と薬物療法を組み合わせて治療を進めます。
1. 精神療法(心理療法)
特に認知行動療法(CBT)が不安障害に対して有効性の高い治療法として知られています。認知行動療法では、不安や恐怖を引き起こす考え方(認知)の偏りを見直したり、不安を感じる状況に少しずつ慣れていく練習(曝露療法)を行ったりすることで、不安への対処スキルを高めていきます。当院では、医師による精神療法に加え、必要に応じて心理カウンセリング(臨床心理士)で専門的な認知行動療法などを受けることも可能です。
2. 薬物療法
症状が強い場合や、精神療法だけでは改善が難しい場合に、補助的に薬物療法を行います。主に使われるのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬や、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など)です。抗うつ薬は不安感を和らげる効果があり、依存性が比較的少ないため、長期的な治療に使われることがあります。抗不安薬は即効性がありますが、依存性や眠気などの副作用に注意が必要です。薬物療法は必ず医師の指示のもと、必要性や副作用について十分に説明を受けた上で開始し、自己判断での中断や量の変更は絶対にしないでください。
3. その他のアプローチ
リラクゼーション法(深呼吸、漸進的筋弛緩法など)を練習したり、生活習慣を見直したりすることも、不安の軽減に役立ちます。
セルフケア
不安障害の治療には、ご自身の取り組みも大切です。日常生活で以下の点を心がけてみましょう。
- ストレス管理:自分に合ったストレス解消法を見つけ、溜め込まないようにしましょう。
- リラクゼーション:深呼吸や瞑想、ヨガ、軽いストレッチなど、リラックスできる時間を取り入れましょう。
- 規則正しい生活:十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は心身の安定に繋がります。
- カフェイン・アルコールの制限:カフェインやアルコールは不安を強めることがあるため、摂取を控えめにしましょう。
- 情報収集と理解:ご自身の病気について正しく理解することも、不安の軽減に役立ちます。ただし、インターネットの情報などに振り回されすぎないように注意しましょう。
- 一人で抱え込まない:信頼できる家族や友人に相談したり、自助グループなどを利用したりするのも良いでしょう。
- 焦らず治療を続ける:治療効果が現れるまでには時間がかかることもあります。焦らず、根気強く治療に取り組みましょう。